1. 『For Example』
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『For Example』(1995)1995
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Review

-かなり力をいれていたプロモーション-

日本盤には“泉山真奈美・鈴木しょう治・村岡祐司”というブラック系には欠かせない布陣で、それぞれが解説を執筆しているという力の入れよう。ブルガリア盤の存在やインドネシアではカセットで販売されたという背景も含め、当時MCAは最大級にプロモーションをしたことがうかがえる。
 その期待に数字としては応えられなかった本作であるが、作品の内容は充実している。95年発表という、ヴォーカルグループブームが成熟してしまったタイミングを考えると、勢いだけではリリースできなかったはずである。

-シングル化された楽曲-

作品は代名詞とも言える①「I'd Rather Be Alone」から幕開け。何度ボーイズ・Ⅱ・メン(Boyz Ⅱ Men)「End Of The Road」と酷似しているなどと揶揄されたのであろうかわからない、甘美なスロウである。確かに似ている部分もあるわけだが、それはそれで自信がないと説得できないはず。そこを流石のハーモニーで押さえつけている。
 この楽曲のことは上記のようなことが書かれていることが多いのだが、ここでは作者についても触れておきたい。ハーシェル・ブーン(Herschel Boone)ラヴェル・ムーレー(Lovell Moorer Ⅲ)は、エクセル(XL)の作品で紹介しているのだが、タブー(Tabu Records)で活躍してきた2人で、きれいなメロディを提供してくれるベテラン。この曲のもつわかりやすさも、2人の作風を考えると合点がいくといえる。

このヒット曲に続くのは、スロウの続くアルバムのなかで唯一といえるアップの②「I Can Make It Up To You」。シングルカットされた後掲のカップリングになっているこの楽曲は、ハイ・ファイブ(Hi-Five)カラー・ミー・バッド(Color Me Badd)が歌いそうなポップなダンスチューンである。
 このシングルA面で良さそうなの表面であったのが③「From The Fool」である。レイニー・スチュワート(Laney Stewart)が手がけており、“少しだけ”セクシーでナスティという絶妙なサジ加減を披露してくれている。シングルとして数字的にはR&Bチャート95位と今ひとつであったが、明らかに他の楽曲よりも完成度が高く、白眉の出来である。
 ちなみにその他のシングルは、デビューのきっかけとなった⑩「The Swang」と、プロモーションオンリーとなっていた⑫「It's Alright」。はなぜか激レア盤となって値段が異常に高騰しているわけだが、数万円も出す必要はないと思うのは余計なことであろうか。

-制作陣からみえること-

アンダードッグス(The Underdogs)結成前のデイモン・トーマス(Damon Thomas)が提供した⑥「So Low」は、深いベースラインに初期のR.ケリー(R.Kelly)が得意とするような優しいダウンロウという佇まいで、切なさがたまらない。これは1994年リリースのN-フェイス(N-Phase)の「Spend The Night」と同じ方法論と言えるのではないだろうか。

その他、アル・B・シュア(Al B.Sure)の従兄弟とであるカイル・ウエスト(Kyle West)と、ボーイズ・Ⅱ・メンの初期メンバーであるマーク・ネルソン(Marc Nelson)が、程よく緊張感のある④「She's Always On My Mind」を、クリス・ストークス(Chris Stokes)⑧「I Found A Love」を手がけている。クリスはやはりお子様声の方が得意なのか、楽曲は良いのに成熟したⅣエグザンプルとは合わなかったような印象がある。
 また、全体的に関わっていて、この作品のキーマンと言えるのがゲン(Gen)とクレジットされている人物である。半数近くの楽曲を共作しているのだが、おそらくゲン・ルビン(Gen Rubin)ではないだろうか。カミング・オブ・エイジ(Coming Of Age)メアリー・J・ブライジ(Mary J.Blige)アレサ(Aretha Franklin)と歌った「Don't Waste Your Time」を作曲した人物であるが、詳細なクレジットがなく、不明である。
 ちなみに、メンバーもアンドレとボビー・Cを中心に制作にも携わっている。その後のふたりの活躍を考えると当たり前と言えるのだが、デビュー当初からその才能を見せていたことがわかる。

-価格破壊-

以上のように、しっかりと作られていて、内容も充実。確かにきれいな曲が多すぎて物足りないというソウルファンもいるだろう。しかし、発売時のプレスが多かったせいだろうが、Amazonやブックオフで投げ売りされているという現実が寂しい。Spotifyではしか解禁されていないわけで、聴いたことが無ければ、フィジカルでアルバムを手にしてもらえたらと思う。

(2022.05.27)

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