1. 『Stronger Than Strong』
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『Stronger Than Strong』(1992)1992
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Review

-同日発売という不運!?-

TLCのデビュー作と同日発売。当時の「Black Music Review」誌(1992.5)では、それよりも先に本作を、松尾“KC”潔さんが取り上げている。記事を読む限り、こちらのほうがハマったという感じが伝わってくる。それだけとり上がられたにもかかわらず、TLCとは、商業的には大きく水をあけられてしまったトリオが唯一残した作品である。

-プリンス・バンド卒のプロデューサー-

リードのキム・ケイジ(Kim Cage)が、もともとジェシー・ジョンソン(Jesse Johnson)[*1]のバック・コーラスをやっていたということから、ジェシーが全面バックアップ。ファンキー・マシナリーズ(The Funky Mercenaries)名義で全ての楽曲を手がけている。そのため、クール・スクール(Kool Skool)などと同様に、R&Bとヒップホップを融合しようとしている試みがよくわかる。メンバーにもラッパーであるクリスティ(Christi Thornton)が存在することで、さらにそのウェイトは増していく。今でこそ当然のことであるわけだが、時はメアリー・J・ブライジ(Mary J.Blige)登場の数ヶ月前。プリンス(Prince)のギタリストとしていろいろな音楽を吸収してきたジェシーだから表現できたと言えるのではないだろうか。

-張り巡らされた制作陣-

本作が話題になったのはクラシック化した⑫「Let's Spend The Night Together」である。まさしく白眉な1曲で、明らかにこの曲のクオリティが高い。タイトルからロッキッシュな曲かと思いきや、ポップなダンストラックに仕上がっていて、UKで流行りそうなリズムに体が動き出すようである。これにつづく⑬「Sexy Things You Do」も同じようなリズムにニュージャックのように跳ねるビートが続いてくる。組曲のようにつづくこの2曲の流れがハイライトと言える。

ニュージャックとしての解釈もあるだろう⑥「Till The Morning Comes」であるが、筆者はどちらかというとポール・ハードキャッスル(Paul Hardcastle)を思い出してしまった。彼がプロジェクトしたキス・ザ・スカイ(Kiss The Sky)のシンクラビアの、どことなく冷たくもあり、そこがカッコイイという世界観を望める。これは既出のにも表現されていて、淡々と刻んでいく雰囲気にアルバムタイトルのように“強さ”を感じることができる。

-負の方程式を打ち破る存在-

サンプリングのネタとして③「Don't Fight The Feeling」には、シャラマー(Shalamar)の大ネタ「A Night To Remember」を使用。また⑦「World Healing」にはマーヴィン・ゲイ(Marvin Gaye)の「Sexual Healing」を大胆に使うなど、来るべき時代に対応しているようなスタイルであるが、やはり原曲の良さがあってのこと、と思ってしまうものに過ぎない。クレジットにはないが、⑮「Don't Leave Me Waiting」は、シャーデー(Sade)の「Paradise」のリズムをサンプリングしているのかと思ったのだが、いずれにしてもこれも原曲を思い出すに留まってしまった。
 そんななかで、原曲を思い出しつつも、しっくりきていたのは⑰「Love Complications」である。明らかにニュージャック到来まえの80年代中~後半の佇まいで、ギャリー・グレン(Garry Glenn)の「Feels Good To Feel Good」の切ない雰囲気をそのまま表現している。キムのヴォーカルが力強いことから、ギャリーのそれよりもソウルよりになっているような仕上がりである。ちなみに、⑯「Do You Really Love Me? 」もやはり80年代中頃のアニタ・ベイカー(Anita Baker)あたりを彷彿とさせてくれる[*2]

-ソロ活動はどうなのだろうか-

1枚の作品でヒップホップとR&Bを混ぜてというコンセプトだろうが、現在のメインストリーム…例えばドージャ・キャット(Doja Cat)のように、いつのまにかヒップホップが入ってきて…というものではなく、まだまだ発展途上といえる時代のもの。やはりR&Bとヒップホップが上手く溶け合っていない気がする…と言ってしまうのは、現在がリリースから30年も経ってからだからである。当時これだけ斬新に作ったという意味でも、彼女たちには大きな功績があるのではないだろうか。

(2022.06.11)

[*1]60年生まれのジェシーが、74年生まれのディアンジェロ(D'Angelo)のバンド、ヴァンガードに入ったと聞いたときは驚いた。しかし、こういったベテランの支えがあってのディアンジェロなんだろうと納得した。
[*2]アニタの名作「Caught Up In The Rapture」はギャリー・グレンの作。同じような雰囲気を感じるのは当然のことである。あのキラキラしたような時代感というか、そんなものをとても感じる。

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