-虫歯ができてしまいそうなほど…-
「あま~~い!」というスピードワゴンのネタは懐かしいが、まさしくそう叫びたくなるのがこの作品である。俗にスウィート・ソウルといわれるデルフォニクス(The Delfonics)のようなプロダクションを敷き、それをあからさまにしているところから、歌声で勝負するぞという気概が伝わってくる。しかし、ニュージャック時代によくぞリリースできたものである。
-金太郎飴-
そんな理由で中身は金太郎飴状態。ひたすら甘くあまく迫ってくる。
ピアノと甘いコーラスのインタールードの①「I Really Love You」に続くのは、くしくも同期のボーイズⅡメン(BoyzⅡMen)のヒット曲とほぼ同名異曲の②「I Wanna Make Love To You」。ファルセットで埋められ、ひたすら優しく、まじめに彼女を口説いている。熱く迫る③「Hold Me」では、「Me & Mrs.Jones」をアップデートしたかのようなプロダクション。これには思わずほこっりとさせられてしまった。さらに謝りまくるのインタールード④「I'm Sorry」の後の⑤「I Don't Wanna Lose Your Love」では、ジョデシィ(Jodeci)「Forever My Lady」の更に紳士版とでも言えるようなメロディラインを刻み、ヤサ男を演出する。
この5曲までですでに胸焼け状態となってしまう。そこに涼しい風を運んでくれるのはディオンナ(Dionna)という女性が歌声から始まる⑥「Gonna Miss The One」。もの悲しげな雰囲気は雨の景色にしっくりとはまりそうだ。
-2曲のみアップを収録-
金太郎飴と書いたものの、2曲のみアップが収録されている。こういった作品に無理やりアップを入れてしまうと、作品のバランスを崩してしまいがちだが、この2曲は違和感なく溶け込んでいる。ボトムの聴いたアップの⑨「Come And Get It」と、シンセベースが心地よい⑩「All Of Me」(後半ブリッジ部分の“アイアイアイア~イ”がカッコよい)は、ニュージャック時代のそれを参照しつつも、それに踊らされていない存在感を有している。
インタールードを挟むと、今までの甘い世界へ帰還し、最後まで進む。その中で印象深いのは⑬「Back To Yesterday」。歌いだしは、ポップで優しい“いかにも”なメロディなのだが、サビがドラマティックに展開するところが気に入っている。
-手がけたのは…-
この作品のほとんどを手がけているのがキース・アンデス(Keith Andes)とメンバーのリッキー・ジョーンズ(Ricky Jones)。リッキーが
「テンプテーションズ(The Temptations)やマック・バンド(Mac Band)も手がけている人なんだけれど、彼はぼくらのスムーズな面をよく表現してくれたと思う。」(「Black Music Review」1991年11月No.161)
と語っているとおり、メンバーの一員なのではないかと思えるくらい、彼らの魅力を引き出してくれている。ちなみにキースは、この作品後アフター7(After7)などに楽曲提供を行っている。
-時代背景とのすり合わせ-
確実に時代を意識していないこの作品。モータウンは、ボーイズⅡメンと違う方向性を打ち出し、流行の方向性を模索したのかも知れない。もしこちらが主流になっていたら、ヒップホップとソウルの融合が遅くなっていたのだろうか。
(2012.06.23)