-地味と言われますが…-
地味だのセールスが振るわなかっただの…この作品についてはマイナスなご意見が多いようで…。確かに、コレ、という1曲は無い。だから派手さはない。その代わりに何度もアルバムを通して聴くと深い味わいになる。そんな作品である。そのしっかりした味わいをカンジさせてくれるのは、プロデューサー陣にあるだろう。名前をならべると確かに“地味だけどいい仕事をする人たち”が並んでいる。楽曲順に追っていってみよう。
-張り巡らされた制作陣-
JB(James Brown)「The Payback」ネタ使いの②「Miss My Lovin’」はパフ・ダディ(Sean “Puffy” Combs)周辺で活躍するナシーム・マイリック(Nashiem Myrick)[パフィのプロダクション・チーム“ヒットメン(The Hitmen)”に所属。マリオ・ワイナンズ(Mario Winans)、チャッキー・トンプソン(Chucky Thompson)らも所属]。ミック・ジェロニモ(Mic Geronimo)をからめたヒップなトラックである。
続くシングル③「I Tried」を手がけたのはジェラルド・アイザック(Gerald Issac)[1]と、トロイ・オリヴァー(Troy Oliver)[2]の二人。重たい鍵盤音の出だしが印象的だ。ちょっとデスチャの「No,No,No Part1」(断然part1が好きです)を思い出すのはご愛嬌というもの。
とんがった⑤「If I Could」はダリル・マックラリー(Darryl “Big Baby” Mcclary[3]。ベース音が豊かなミディアム⑩「You Owe Me」も提供している。
そして彼女たちのテイストを理解した、湿度の高いミディアム⑥「It's All Up To You 」は、グレッグ・スミス(Greg Smith:詳細不明。すみません。)というヒト。彼女たちの可愛い部分が少しずつ見えてくる。
それを更に解禁したのが、SWVのような⑦「The Rose」。ベルト・プライス(Bert Price)[4]の仕事だ。これをベストトラックとするヒトも多い様だ。この辺りまで聴くと、“なんでも出来てしまう彼女たちの器用さ=特徴のなさ”という負の方程式を思ってしまう。
-負の方程式を打ち破る存在-
その数式を打ち壊すべく登場するのが、説明不要のヴィンセント・ハーバート(Vincent Herbert)だ。⑪「You Know」では、純粋なヒップホップソウルを届けてくれている。シャイロ(Shiro)「Can We Talk」を思い出した。続くのがハーブ・ミドルトン(Herb Middleton)。こちらも典型的なヒップホップ・ソウルといえる⑫「This Feeling」、ブラウンストーン(Brownstone)「You Give Good Love」を彷彿とさせる重たいビートと重ねる分厚いコーラスが印象的なタイトル曲⑬「Any Weather」を提供している。とらえどころの少ない彼女たちだが、こういったヒップホップ・ソウルと重たいスロウという得意とするであろう部分を引き出している。
さらにそのキキゴタエのあるスロウを深めていく⑯「Rainy Daze」は、ケイス(Case)の1st『Case』を手がけたケニー・スムーヴ・コーネギー(Kenny “Smoove” Kornegay)が。ギターのリフを効果的に、出すぎず配置していることと、彼女たちの高音コーラスで、切なさを演出している。
最後は中心メンバー、キーア(Kia)が手がけた渾身のスロウ⑰「Because I Love You」。ピアノと声で勝負できるところはホンモノだろう。ここで本編は終了なのだがボーナストラックとしてアカペラ・ナンバーが。この曲が好きだというヒトも結構いるようだ。
-ソロ活動はどうなのだろうか-
ありがちな1枚で解散してしまうグループ。彼女たちもその運命にあった。シャリッサ以外に音楽活動を行っている情報は入ってこないのがさらに淋しい限りである。
(2011.03.20)
[1]メアリー・J.ブライジ(Mary J.Blige)やスリー・フラム・ザ・ソウル(III From Tha Soul)らでの実績あり。
[2]日本では、クリスタル・ケイ(Crystal Kay)を手掛ける。
[3]大御所ジェラルド・リヴァート(Gerald Levet)、キース・スウェット(Keith Sweat)、ジョー(Joe Thomas)との仕事あり。
[4]のちにアリシア・キーズ(Alicia Keys)や久保田利伸を手がけることになる。