-ほどよいテイスト-
ギターを持ったジャケットではない。しかし、とにかく温かみのあるギターの音色が印象的な作品である。それでありながら、フォーキー・ソウルではなく、しっかりとメインストリーム的な楽曲を聴かせる。この微妙な“サジ加減”が見事に決まり、音を調和させている。
-ギターの音色-
タイトル曲の①「Atomosphere」の入りからファンクなギターが落ちてくる。そこに乗るバリトン・ボイス。そして女性(ドチェス・カーター=Dochess Carter)の歌声。骨太感を与えながらも切なさを感じてしまう。
続く②「Take 5」はオールド・ソウル風とも言える聴かせる楽曲。ヒップホップとは縁遠い、実直なザ・ソウルといえるような仕上がりとなった。丁寧な歌声に好感が持てるジミ・ジェイムス(Jimmi James)の声から始まる③「Sooner Or Later」はデュエット。生音、特にドラムのスネアとオルガンが印象的である。ジャジーな雰囲気が、シャウトしすぎない二人にはしっくりとはまる。ディアンジェロ(D'Angelo)、エリック・ベネイ(Eric Benet)が見せていた音使いが嬉しい。
-切なさを演出する-
下地はファンクということが見え隠れする2曲につづいての⑥「Emergency」もギターの入りから始まるスロウ。リフを重ねてその上に歌声を落としていくのだが、そのリフがもたらす“切なさ”は絶品である。また、ブリッジ部分での語り風な部分に、(楽曲中の)彼の気持ちが溢れ出し、そこに“緊急事態”を感じることが出来る。サムソン本人が、“一番のお気に入り”といっている⑧「Priority」は、それまでの雰囲気とは一転。明るく、メロディアスで、日本人好みな仕上がり。この曲だけはピアノの入りからその覚えやすさが伝わる。多少お行儀良く聴こえてしまうかもしれないが、心温まる楽曲である。アウトロ扱いの⑨「Medicine Music」は、もっと聴きたいと思うところでフェイド・アウト。その理由はすぐに予定されていた1stフル・アルバムに収録されるものだったからであろう(アルバムのタイトルに使われる予定だった)。
-収録時間-
9曲入り。33分。もの足りない。そう思ったが、「もっと聴きたいぞ!」と思わせる良い効果があるのかもしれない。すぐにも1stフル・アルバムをリリースしていたら、その効果にもっと大きな意味があったように思う。それにしても、キダー・マッセンバーグ(Keder Massenburg)はお蔵入りが多い気が…。『bmr レガシー スーパープロデューサーズ』(Pヴァイン・ブックス/2012年刊)の、1999年に行われたインタビューの記事を読む限り、本意ではないのだろうが…。きっと録音されているであろう『Medicine Music』がいつかリリースされますようにと願いたい。
(2011.04.02)