-シンガー-
その歌声は以前から歌いたがっていた。ブラウンストーン(Brownstone)のピアノ・バラード「Half Of You」。95年のこの作品で、最強女性グループとの掛け合いをみせる。10年後、ようやく彼の初のリーダー・アルバムが完成し、シンガーとしてようやく表舞台に上がった。
-寒い時代背景-
「メジャーのほとんどはボクのようなコンテンポラリーR&Bアーティストとは契約したがらない」(「bmr」誌:2005.8)
と本人が語っているとおり、昨今のレコード配給会社は、若年向け“ポップス”に力を入れたがる。商売だから仕方ないのかも知れないのだが…。このあたりは、白人バンドTOTOのスティーヴ・ルカサー(Steve Lukather)も、
「30代以上のアーティストは、ラジオでも曲をオンエアしてはくれない」
と言っていたことも思い出される。これが悲しい現実である。そんな事情もあり、インディからのリリースとなった。といっても、もうインディ作品も充分流通するようになったわけなので、リスナーにとっては特に問題は無いわけだが、辛い時代である。
-セルフカヴァ-
まず話題となるのは、セルフカヴァである⑦「My Valentine」(カール・トーマス(Carl Thomas)に提供)、⑪「I Apologize」(アニタ・ベイカー(Anita Baker)に提供)である。
ヒップホップ・リミックスとでもいえるような⑦のカールのヴァージョンは、正直なところムリヤリ現代風(2000年当時)にしたようなアレンジで、あまりスキではなかった。今回のそれは、ジャズ・ヴァージョンとでも言おうか。物悲しいトランペットとアコースティック・ピアノの音が、この曲に大切な“憂い”がよく表現されている。⑪についても、アニタ同様、「このヒトはジャズが好きなんだな」と感じさせてくれる。
-マーヴィンとスティーヴィーと-
「マーヴィンよりもスティーヴィーのほうが影響が大きい」
といいながらも、「I Want You」まんまのオープニング①「Touch You There」。これはアルバム全体の雰囲気を伝えたかったということらしい。マーヴィンの雰囲気作りに影響を受けているようだ。
-意外なネタ-
ネタといえば、③「Slippin' Away」では、スパンダー・バレエ(Spandau Ballet)の「True」という有名曲をあえて使用。メロウな世界にメロウな選曲が合わないはずもなく、爽やかさに加え、華やかさを兼ね備えている。AORとゴードンの作風は合わせやすいことを証明する楽曲である。
-自分たちで楽曲が創れる実力-
そんな、上記のことから、アルバム全体では、ソウルというよりもアーバン・コンテンポラリーに近い。“歌い上げる”というカンジでは無いのだ。でも、彼の声と今までの、メロディーを大切にしてきたスタイルからして、この方向性が一番しっくりくる。
(2006.05.12)