1. 『Everything-N-More』
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『Everything-N-More』(1993)1993
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Review

-さらなる頂を目指して-

前作『Special』からタイトル曲がR&Bチャート2位を記録。ともなれば次の作品ではチャート登頂を目指したい。そう思うのは必然というものだろう。そのためには、同じ布陣でもう一度その高みを目指すか、それとももっとメンバーを強化してチャレンジするかの2つに分かれるのではないだろうか。そしてヴェスタ(Vesta Williams)は後者の道へ進む[1]ことになる。

これまでヴェスタを支えてきたのはアタラ・ゼイン・ジャイルズ(Attala Zane Giles)だった。セカンドからのヒット「Sweet Sweet Love」(R&B4位)、前出の「Special」(R&B2位)と数字での実績も残してきた。もちろん楽曲も佳曲が多く、ほとんどの曲をプロデュースすることで生まれるバランスを持ち合わせていた。しかし、今回はアタラの名前は登場しなかった。

-2人のプロデューサー-

代わりに多くのプロデューサーを起用しているのだが、その陣容が特徴的である。80年代にクワイエット系のプロデューサーとして君臨しながらも、新しい時流に飲み込まれたマイケル・J・パウエル(Michael J.Powell)、時流をニュージャックに包み込まれても、その渦中でうまくその波を乗りこなしたチャッキー・ブッカー(Chuckii Booker)という2人が同じ船に乗っているのである。

マイケル・J・パウエルは彼らしさを踏襲している2曲を手掛ける。⑤「Always」は日本人が好みそうなソフトなバラード、もう1曲は夜の雰囲気が見えてくるミディアム⑩「In Your Mind」。どちらもホイットニー(Whitney Houston)や、アニタ・ベイカー(Anita Baker)の影が見え隠れする。

一方のチャッキーはギャップ・バンド(The Gap Band)のカヴァ⑥「Outstanding」をプロデュース。アルバム中で一番ヴェスタを吠えさえてくれている。この大ヒット曲を歌っても、ヴェスタの声なら申し分ないと判断したのだろう。こちらも音作りは、チャッキー流のファンクをフンダンに盛り込んでいる。

しかし、時は1993年。いくらチャッキーがジャネット(Janet Jackson)のライヴでミュージック・ディレクターを務めたとはいえ、すでに流行りの音ではなかったのではないだろうか。当時はすでにニュージャックの波も落ち着き、ジョデシー(Jodeci)ボーイズⅡメン(BoyzⅡMen)時代に突入していた。もちろん楽曲が悪いわけではない。だが、数字的な成績を残すことを目指すのであれば、この時代にこの2人の起用は…。これが1989年頃リリースならば、後述の数字も大きく異なっていただろう。

-ブライアン・マックナイトの紳士感-

上記の2人以外には、レックス・サラス(Rex Salas)ブライアン・マックナイト(Brian McKnight)マーク・ゴードン(Marc Gordon)等が名を連ねている。なかでも一番相性が良かったのは、ブライアンではないだろうか。ブライアンのクリーンな世界観を忠実に安定した歌唱力で歌い上げるヴェスタ。そしてブライアン自身がコーラスに参加し、やさしくフォローする。

特に②「Over And Over」で見せる掛け合いは必聴。途中からコーラスというよりはデュエットなのか?と思ってしまうほどブライアンが登場する。通常なら“出しゃばりすぎ”と言いたくなるほど目立つのだが、これがブライアンの清潔感にかき消されてしまう。

-チャートはR&B65位と惨敗-

数字的には苦しみ[2]、結果A&Mとの契約がなくなるわけだが、上記のブライアンとの出会いも含めて、ソフトな方向性は進化した。ディール消失後からジャズ・フュージョン寄りのアーティストからゲスト・ヴォーカル依頼が多数。これがリー・リトナー(Lee Ritenour)との出会いで生まれた次回作『Relationship』につながっているのだと思料する。

(2015.07.15)

 

[1]エグゼクティブプロデューサーは変わらずE.J.ジャクソン(E.J.Jackson)なので、進む方向を決定したのは彼ではないだろうか。

[2]前作『Special』はR&B15位を記録。結局彼女の一番の出世作となった。

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