1. 『It’s Real』
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『It’s Real』(1993)1993
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Review

-マッチョなジャケ-

そのマッチョな肉体美を見ただけで内容が透けて見える、とでも言ってしまおうか…。93年当時、きっとジャケ買いをされた方も多いのではないだろうか。期待にしっかりと応えるように、ジャケットのイメージと中身がシックリと溶け合う。そんな90年代らしい作品である。

-当時の状況、現在の視点-

アトランティックからリリースということもあり、制作陣は豪華…と言いたいところだが、当時話題となったのはエディ・F(Edward “DJ Eddie F” Ferrell )くらい。シングルにも選ばれた②「Ain't Nuthin’ Wrong」は、現在でも“この作品といえばこの曲!”と言われる方も多い、彼らしいヒップホップ・ソウルと言えるプロダクションに、野太いリードが乗っかる骨太なトラック。しかし、R&Bチャート82位と、決して派手なものではなかった。

ところがその制作陣。現在の視点からみると、実に興味深い。この後に人気を博すグループイントロ(Intro)からケニー・グリーン(Kenny“G-Love”Greene:前出のに参加)、そして有名になる前のデイモン・トーマス(Damon Thomas)ジョシュア・トンプソン(Joshua Thompson)が参加。また、コーラスにジェシ・パウエル(Jesse Powell)シェリー・フォード(Sheree Ford)、さらにスペシャル・サンクスの欄には、久保田利伸の名前も確認できる。

-やはり力量があります-

その中でも最高の仕事をしているのがデイモン・トーマスである。なんといっても、90年代屈指の名スロウと言い切ってしまいたい⑦「This Is What I Would Do」である。ピアノの旋律にドラマティックなメロディ・ライン、リードのマッチョな歌声、ジェシとシェリーのコーラスと、美味しさを凝縮したキャンディのような仕上がりになっている。特にサビ部のコーラスの使い方…。このドリーミーな世界が7分以上も繰り広げられるからたまらない。これを聴き逃すソウル・ファンがいるとすれば、本当にもったいないと断言したい。ちなみにデイモンは、シンセの音色が角松敏生プロデュースで作品を残しているジャドーズ(The Jadoes)を思い出させてくれるミディアム⑤「Every Time I See You」も提供している。

ジョー(Joe)との仕事でおなじみジョシュア・トンプソンは④「Baby Where Were You」を提供。バリトンとファルセットの掛け合いに、ジェイ&シルキー(Jaye&Silky)つまりヒューマン・ソウル(Human Soul)の作品か!?と思ってしまった。盟友ジーン・レノン(Gene Lennon)デリック・キュラー(Derrick Culler)との共作である。

-歌うだけではありません-

ここまで外部の制作陣を紹介してきたが、グループのメンバーも携わっている。前出の名作にはローレンス(Lawrence Pierce Ⅳ)が、リーダー各のステイシー(Stacy Branden)⑥「All I Am」⑨「I Cry」⑪「Stop Frontin'」、グループ名義で①「We Got Style」⑫「30 Minute Love Caper」を手がけており、ただ歌うことだけのグループではないことを証明してくれている。特にキレイなシンセの下敷きに、後ろからささやくようなコーラスと語るようなラップというスタイルを貫くのプロダクション能力や、⑨⑫で魅せるドゥーワップ・スタイルでのウタゴコロなど、実力を持ち合わせていることを確認させてくれる。

-日本への方向性-

スペシャル・サンクスの欄にはわざわざ“Japan Side”とかかれており、前出の久保田や日向敏文の弟、大介の名前が。重複するが④⑤のプロダクションの作り方を見ても日本人っぽいものがあったりと、ひとつのマーケットとして日本が取り上げられていたことは間違いないだろう。残念ながらセールスには結びつかなかったが、Webで確認する限り、“この作品が大好きだ”という日本人のソウル好事家は多い様子。いずれにしても実力至上のカルテットであったことは間違いない。

(2012.11.18)

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