1. 『A Thang For You』
  2. a few good men
  3. artist
  4. privatesoulmusic
『A Thang For You』(1994)1994

Review

-有名な話だが…-

発売からわずか10日で回収。彼らの”幻の”といわれる(幻といわれる割には、結構見かけますが…)デビュー作だ。回収の理由は⑨「Chillin'」にサンプリングされている、マーヴィン・ゲイ(Marvin Gaye)の「What's Going On」らしい。確かにクレジットはない。さらに、⑩「That's the Way」ではKC&ザ・サンシャイン・バンド(KC & The Sunshine Band)の同名曲と、デバージ(DeBarge)の「I Like It」を、また⑮「Southern Girl」[メイズ(Maze featuring Frankie Beverly)のそれとは同名異曲]ではテンプテーションズ(The Temptations)の「My Girl」と、多数引用しているのに、これまたクレジットなし。これらが、再構築版『Take A Dip』から外されていることを考えると、だけが理由だったとは思えない。デビュー・シングルとなった②「A Lil' Somethin'」がヒットしなかった(R&Bチャート73位)ことや、LAリード(La Reid)が新しい音を入れろと指示しただとか、”出し直し”の理由には色々な噂が残っている。果たして真相はどうなのだろうか?

-グループとしての意義-

作品を見てみよう。LaFACE発という事で安心できるプロデューサー陣が揃った。まずはベイビーフェイス(Babyface)。作品中の核となる2曲のスロウを提供。彼らの代表曲となった⑥「Have I Never」は、そのまま童顔氏の作品『For The Cool In You』に収録されていてもいい、まさしく童顔印な1曲で、これをベストとする人が多いようだ。しかし、個人的には③「Young Girl」を推したい。甘いメロディだけならベイビーフェイスのソロでも楽しめるのだろうが、そのメロディに吼えるトニーが熱く絡みつき、そこにケミストリーが発生する。このある意味ギャップとも言える部分がグループとしての魅力であり、意義ではないだろうか。

-盟友-

童顔氏以外にも実力者たちが肩を並べる。まずは盟友ダリル・シモンズ(Daryl Simmons)。切ないスロウの⑧「A Good Man」や回収問題の主役となってしまった前出のを手がけている。特には肩の力を抜いた軽いハネのあるミディアムで、『Take A Dip』から外すには本当に惜しい仕上がり。また、メンバーと共作している⑪「1-900-G-MAN (How I Say I Love You)」では官能の世界を描き出し、ベイビーフェイスと共作したではグループの若々しさを伝えるハジけてみせたりと、相変らず器用に立ち回る。彼の絡んだ楽曲は本当に安心して聴くことができる。

-再収録されなかった楽曲はどうか-

タイトル曲④「A Thang For You」⑦「Will You Love Me Tomorrow」は、ボビー・ブラウン(Bobby Brown)などに楽曲提供の実績のあるデレク・アレン(Derek “D.O.A.” Allen)によるもの。可愛いファンクとなったはファルセットが印象的。こちらも『Take A Dip』からは外されてしまった。

また、外されたといえば、デビューシングルとなったトリッキー・ステュワート(Christopher A Stewart)ショーン・ホール(Sean "Sep" Hall)のボスプロダクションズ(Boss Productions)が起用されたり、古いソウルへのオマージュ的なにはブライアン・モーガン(Brian Morgan)と有名どころのクレジットを確認できる。しかし、それより印象に残ったのが実はインタールード。手がけたのはまだ無名時代のトニー・リッチ(Tony Rich)である。大物プロデューサー陣制作楽曲の接着剤として使われているところが面白い。とくに⑤「Please Baby Don't Cry (Interlude)」については、ドゥルー・ヒル(Dru Hill)の2nd収録「Nowhere Without You」と同様、「続きが聴きたい!」と言いたくなる仕上がりだ。しかし、トニーもこんな雰囲気の楽曲(白くない)もできるなら、そっち路線で行ってもらいたかったと思ってしまった。

-どちらが好き?-

このカルテットを語るときに避けられない問題、それが『Take A Dip』とどちらが好きか?というものである。アップデートを狙った『Take A Dip』にはダラス・オースティン(Dallas Austin)が起用され、当時の流行の音を挟んだのだろう。しかし、これだけ時間が経ってしまえばそこは関係なくなってしまう。上記に外された楽曲についての感想を記してきたが、(新しく入れた楽曲と比較しても)やはり捨てがたい。筆者としては、こちらの作品のほうが好きだという結論に至った。

(2012.07.01)

List

TOPへ